【短編小説】『ジョセフ・クラーク』


 ステップインサイドのとあるバーにはいつもすり減った男たちがそれぞれ一人で酒を飲んでいる。
 薄暗い店内の中央にはビリヤード台があり、壁際にはピンボール台があるが、誰も使っていない。
 男たちはただ黙って座っていて、時折ひとことふたこと言葉を交わすだけだ。


 ジョセフ・クラークがいつものカウンター席で推理小説を読んでいると、突然隣に見知らぬ男が座った。
 その男はバーで見かけたことのない異邦人のようだった。
 ステップインサイドはいわゆる郊外のベッドタウンで、ほとんど見知った人間たちしか住んでいないため、知らない男は珍しかった。


 「あなただけに秘密でおしえますが、異界の門が開かれる時が来ました。それは今日の0時です」
 そう言うとその男はなにも飲まずにバーから出て行った。
 このバーの酒はどれも格別に美味いというのに、わかってないやつだな、とジョセフは思った。


 ジョセフがバーから切り上げて自宅まで帰り着いた時ちょうど時刻は夜の0時だった。
 いつものようにドアの鍵を開けるとそこはよく知っている自分の家ではなかった。
 玄関の代わりに草原があり、その向こうに天まで続く階段が見えた。

 

 ジョセフは草原を進み、真っ白な階段を登った。
 空の上まで登りきるとまた自宅の扉があった。
 その扉の鍵を開けると、そこにはいつもの自分の部屋があった。
 ジョセフが自分の部屋へとたどり着いたのか、それともどこか違う世界へと消えてしまったのか、誰も気にかける者などいなかった。