【小説】『神』

 

 

 

 

彼は小さなアクリルケースの中に一匹の虫を飼っていた。何もないアクリルケースの中をあてどなく彷徨うその虫を見て、彼は自分がまるで一つの生命の運命を支配する全能の神になったかのように感じるのであった。ある時、彼はその虫を人差し指で潰して殺してしまおうと思った。一つの生命を殺すことができるというのは、なんという全能の力だろう。はたして彼がその虫を潰すと、彼自身もまたぺしゃんこに潰れて死んでしまった。