【エッセイ】生涯と創作の表出について

詩人のジャコモ・レオパルディは38歳でこの世を去った。

作家の夏目漱石は49歳でこの世を去った。

哲学者のスピノザは44歳でこの世を去った。

 

人間に対する深い洞察を書いたこれらの人々は意外と早世である。

(もちろん長寿もいる。ゲーテは82歳、ヴァレリーは73歳)

 

30歳頃から40歳過ぎくらいに凝縮して発揮される創出。

 

ヴァレリーはむしろ40歳を過ぎてから表現を外に出すことになった。

 

何も表出せずに生きることもあり、

早くから表出する=創作を広く周知できる状況に恵まれることもある。

 

ヴァレリーはひとかどの人物であったので40歳を過ぎてから知人から出版の声がかかった。

 

本人は嫌々ながらやぶさかではなかったのか、あるいは生活の糧となるならという理由からかそれまで蓄積していた創作を出版した。

 

ヴァレリーは著作のなかでこうも言っている。

 

そこでわたしは夢想した、もっとも強靭な頭脳、もっとも明敏な発明家、もっとも正確に思想を認識するひとは、かならずや、無名のひと、おのれを出し惜しむひと、告白することなく死んでゆくひとにちがいない、と。そうした人びとの生き方がわたしに開示されたのは、他でもない、彼らほど志操堅固ではないため名声赫々たる生き方をしている人びとによってなのである。

ポール・ヴァレリームッシュー・テスト』 岩波文庫 P17