【短編小説】『ある島の不可能性』第7話

  三十七

 セキュリティのかかって開かない扉を一つずつ通り過ぎて行くうちに、私は入り口から見てちょうど反対側の部屋までたどり着いた。その部屋は12号室であった。12号室の扉にはセキュリティがかかっていなかった。入り口正面の部屋と同じようにノブ式の扉だ。私はノブを左に回したがひっかかって開かなかったので右に回して扉を開けた。部屋の中を見ると、そこには子供のころ父と母の家で見たものと全く同じような書斎があった。
 
  三十八

 私は夢でも見ているのかと困惑した。こんな名も知らぬ島に父の書斎があるわけがない。しかし、たんなる偶然の一致にしては似すぎている。古びた重厚な机に比較的新しい回転式の椅子、そしてその側にカラフルな推理小説が並べられた安物の本棚が配置されている。机の前方には窓があり、そこから外の景色が見えている。その景色は、父の書斎の窓から見えるのと全く同じように、遥か彼方へと続く水平線であった。机の上には、万年筆と一枚の手紙が、窓からの暖かい光に照らされて、蜃気楼のように、おぼろげに揺らめいていた。

 

  三十九

 Dear S

 海へ行け
 生まれる前の
 私が
 そして
 君が
 まだたしかな形を
 持っていなかったころの
 海へ

          Love
          es