【短編小説】『ある島の不可能性』第6話

  三十二 


 とりとめのない回想に耽っているうちにいつのまにか音楽は鳴り止んでいた。背後で突然ポーンという音がした。なにかのスイッチが点灯する音のようだ。振り返ってみると、形の変異した人間のようで人間でないものたちの入った容器がすべて開かれていた。変異体は直立不動のまま静止していた。こいつらは動き出して襲って来るだろうか?まるでゲームみたいに。襲われるのは困るので、私はデスクから離れると部屋の入り口まで戻り、そして部屋を出た。

 

  三十三

 部屋を出た時、外はもう真っ暗になっていた。この研究所に来た時はまだ正午だった。時間が経つのが早い。まるで時計の針がくるくると高速で回るように。左腕の腕時計を見ると実際に時計の針はくるくると回っていた。目が回りそうになったので見るのをやめて、次の部屋へと進んだが、隣の部屋もその隣の部屋もセキュリティカードによる認証がないと中に入れないようになっていた。

 

  三十四

 島には海底で大陸とつながっている大陸棚に位置する陸島と、プレートや海底火山の活動によって海底が押し上げられて形成された大陸とはつながっていない海洋島とがある。島、とくに海洋島は、手つかずの自然や、限られた人間の関係などの好都合な特徴によって、人々から一つの理想郷の実験場として、小説の中で、あるいはまた現実において利用されてきた。10年前、ある冒険家の男によって発見されたある無名の海洋島は、「Theisland」と名付けられた。

 

  三十五

 冒険家は冒険に出ることにした。20年間ずっと密かに考えていたことだ。家庭を守り幸福を維持することは社会的な自分の務めだと思っていたし、彼自身そうした生活の穏やかさや堅実さを愛していた。しかし、彼の心の中には、というより全身の細胞ひとつひとつの奥深くには、抑えきれない果てしない未知の海洋への冒険心があった。

 

 三十六

 人生において裏切るということを彼は一度もしてこなかったし、また細心の注意を払って、何事も裏切らないように心がけて誠実に生活してきた。職場では誰からも信頼される管理職であり、家庭では妻や子供から尊敬される厳格な父親だった。だが、そんな表面の取り繕いには、一人の男の冒険心を生涯押しとどめておけるほどの力はなかったのである。