【短編小説】『ある島の不可能性』第4話

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  二十四

 30分ほど歩くと施設の入り口に着いた。入り口の看板には「TheLaboratry」と書いてあった。やはり何らかの研究施設か。こんな森の奥にあるにもかかわらず、全面ガラス張りの手入れの行き届いた最新の建物だった。外側から見える部分は円形の施設内部の外周に沿って通る廊下だけで、その中の部屋の様子は外からはわからない。中に入る前に少しは情報を得たかったが仕方ない、入り口の前まで進むと回転式の自動ドアが作動し、私は施設の中へと入った。

 

  二十五

 施設内部には人の気配が全くなかった。円周に沿った廊下の内側には目の前の部屋から時計回りに番号のついた部屋が連なっていて、異様に無機質な印象を与えた。こういう時は単純に目の前にあるものから順番に片付けて行くのがよいと思い、先ず目の前の12号室に入ることにした。部屋のドアは自動ではなくノブ式のものでとくにセキュリティカードによる認証の必要もなかった。ドアノブを右に回して部屋に入ろうとしたが引っかかって開かなかったが、ドアノブを左に回すとドアは開き、私は部屋の中へと足を進めた。

 

  二十六

 部屋の中に入るとピアノの音が聞こえてきた。これはエリック・サティジムノペディだ。私が小学生の頃に父がよく聴いていたのを覚えている。父は書斎にこもってカラフルな表紙の推理小説を読んでいた。興味本位でそれらの本を手にとってはみたのだが、当時の私には難しくて読むことはできなかった。だが、そのカラフルな表紙とクリアカバーのかかったその本の独特の美しさだけは好きだった。ゆったりとしたサティの曲とカラフルな推理小説の並んだ書斎。子供の頃の思い出。

 

  二十七

 その部屋にはカラフルな推理小説の代わりに、人間のような形をした生き物が入った大きなガラス製の容器が無数に並んでいた。サティのジムノペディを聴きながら私はそれらの1体1体を観察していった。頭部が肥大したもの、片腕だけが複数本ついているもの、腰から上が2つに分かれているもの、目が4つついているもの、など全部で12体あった。入り口から向かって部屋の左右に各6体ずつ。部屋の一番奥にはなんということもない仕事用のデスクがあり、その上にまた1枚のレポート用紙が置いてある。

  二十八

 Dear S

 音もないところに
 見ることができるか
 その紙は紙か
 このペンはペンか
 
 光もないところに
 聴くことができるか
 その君は君か
 この私は私か
 
        Love
        es