【短編小説】『ある島の不可能性』第1話

 

  一

 私は仕事の海外出張である島に行くことになった。その島はニューギニア島の近くにある無名の島だということしか事前に情報は与えられていなかった。ネットで検索しても何も情報は得られなかった。もちろん私はその業務命令に内心納得してはいなかったが、仕事だから仕方ない。私のような妻も子もない独身男がとやかく理由をつけて人生における新しい試みを受け入れない手などないのだ。

  二

 フライトは順調だった。トム・クルーズがいつも通り体を張ったアクションに精を出す娯楽映画を半ば眠りながら観ているうちにその島に着いた。キャビン・アテンダントが何か飲み物は要りますかと尋ねた時にワインかビールを飲んでおけばよかったと少し後悔した。島にそうした飲み物がある保証はない。一軒の木造の小屋しかない空港には私を迎える一台のジープしかなかった。私しか乗客のいない飛行機は私が島に降り立つのを確認するとたちまち再び飛び立って空の彼方に消えて行った。

  三

 ジープの窓からサングラスをかけアロハシャツを着た浅黒い肌の小太りの中年男が顔を出し、あごでうながすように木造の小屋の方を指し示した。どうやらこいつは会話をする気などない、とにかくあの小屋へ行けと言っているのだなと推測し軽くうなずくと、中年男は窓を閉め車を走らせて地平線の彼方に消えて行った。それにしてもハードな仕事を引き受けてしまったものだ、とあらためて私は思った。

  四

 薄汚れた木造の小屋、その錆びた鉄製のドアを開けると、中には小さな赤ちゃんがいた。赤ちゃんは私を見ると突然けたたましく鳴き出し、手足をばたつかせて激しくもがき出した。それはまるで醜悪な虫のようだった。虫はいったん仰向けにされると再び元の体勢に戻るのにとても苦労する。赤ちゃんはその点において人間というよりむしろ一匹の知性のない虫に近かった。私はその動きを見て少し吐き気を催したがすぐに気を取り直した。

  五

 「ここに来たってことはつまりあれだな」とその赤ちゃんは言った。あれとはなんだ、脳みそがあるならもっと明確な言葉を話せと問い詰めたかったが、相手は赤ちゃんだ。会話ができるだけでも他の赤ちゃんよりはマシな方だと思い、私は質問した。「あれとはなんだ、この島での私の仕事が何かお前は知っているのか?」。「知らない。それはお前自身が見つけることだ」と赤ちゃんは答えた。

  六

 まともな会話もできない醜悪な虫の周辺を見渡すと、半ば風化した木のテーブルの上に茶色く変色した一通の手紙が置いてあることに気づいた。赤ちゃんを丁寧に持ち上げて部屋の片隅に置き毛布でくるんでやると、そいつは本能の操り糸が切れて落ち着いた虫のように穏やかに眠りについた。そうして厄介な問題を片付けると、私は手紙を手に取り、封蝋を外して開封した。

  七

 Dear S

 森へ行け、ただし夜に
 真実は朝の光には溶けて消える定め
 知性のない虫は死ぬべき定め
 新しい肉体の創造はやがて
 家系の断絶によって意味を失うだろう
             
               Love
               es