金木犀 六

    六

池袋駅からサンシャインシティの方へと歩いて数分のところにその居酒屋はあった。地図アプリを開いてみると、以前はバッティングセンターがあったが今ではもぬけの殻みたいになっている建物の対面のビルの七階にあるようだ。

また居酒屋かと昇平は思った。居酒屋、居酒屋、居酒屋・・・。社会人ってやつは、いや大人ってやつはいつだって居酒屋。より敷衍すれば居酒屋的空間とでも言おうか。コミュニケーションが大切だとか就活でよく言われるけど、それは要するに居酒屋的空間で他人のご機嫌を取ることに長けているかどうか、ということでしかない。会社の飲み会でも合コンでも同窓会でもやる事は全部同じ。他人のご機嫌を取って、さりげなく自分のポジショニングを成功させるということだ。

そういった社会人としての一連のお約束に昇平はいいかげんうんざりしているのだった。ご機嫌取りがうまくいけば、会社では有利な地位に収まることができる、合コンではお気に入りの女の子をお持ち帰りできたり後日二人きりで会えたりする。同窓会だけは少し違う。可能性として考えられるのは、昔はそんなに可愛いと思わなかった女の子がめちゃくちゃ可愛くなってたりして、もしかしたら急接近できたりすることくらいだろうか。

いずれにせよ、他人のご機嫌取りをしなければならないという社会人としての最適解に自分のパフォーマンスを適応させなければならない、ほとんど義務のようなある種のスマートさの要請が待っていることを、同窓会の会場まで池袋駅から歩きながら予想して、昇平の脚はなんだか重くなるのだった。