金木犀 五

    五
 

「大川くん、起きて。仕事行かなきゃ」

昇平は高坂美沙希の声によって起きた。どうやらあのあと酔い潰れて眠ってしまったところを美沙希に自宅まで連れられて介抱されていたらしい。

昇平は決して酒に弱いわけではなかった。大学時代のサークルの飲み会で相当鍛えられていたので、ウイスキーのボトルを一気飲みしたりしない限りは酩酊することなどあり得ないはずだった。しかし、現にこうして酔い潰れて、しかも女上司の自宅で介抱までされるなんて、自分に一体何が起きたのかうまく飲み込めないまま、何事もなかったように装って、美沙希とは時間をずらして出勤するのだった。

その日から高坂美沙希の様子が変わった。仕事中も時折昇平の方を見て微笑んだり、週に一度の飲みだけではなく、ランチに誘われるようにもなった。

酔い潰れていた時に、何かがあったのだろうか。居酒屋から美沙希の自宅で何があったのか昇平は何も思い出せなかった。ただ、夢で見た無数の髪の毛のような影の恐ろしさと、巨乳の柔らかい感触だけは、実際にそれに全身が包まれるかのように思い出せるのだった。

いつもの喫茶店で五百円のアイスコーヒーを飲みながらそんなことを考えてスマホを弄っていると、なつかしい高校時代の旧友からメッセージの通知が来た。かれこれ二年半ほど会っていない野球部部長の田中将治からの連絡だった。「来週の土曜に同窓会やるからおまえも来いよ」と書いてある。

同窓会の誘いは三回くらいスルーしていたが、さすがに今度くらいは行ってみるか、と昇平は思った。

過去に戻ることで、まるで高校生の男子みたいな、恋に対する最近のやりきれない思いに何か新しい風が吹いてほしい、と心の片隅でひっそりと期待していたのだ。