陰影 八


        八

二年前の夏、雄二は死んだ。雄二の妻の仁美さんから突然電話が来て、それを知った。入水自殺だった。ある日突然雄二が帰ってこなくなり、仁美さんが警察に捜索願いを出したが見つからず、雄二の務めていた会社の人も、その日にいつも通り定時退社した雄二を見たきりで、何処に行ったか知らされていた人は誰もいなかった。東京中の雄二の行きそうな場所を方々捜しても見つからず、捜索は難航するかに見えたが、約一ヶ月後、東京ではなく、雄二が生まれて大学まで過ごした街の河川敷に横たわり亡くなっている雄二が地元の警察によって発見された。他殺の疑いもあったが、会社と自宅を往復するだけの雄二の生活範囲から疑わしい人物は誰もおらず、そのまま自殺と認定されたという。

雄二は誰かに恨まれるような性格でもないし、大学時代から常に危険に敏感で慎重な性格でもあったので、確かに他殺ではないということには納得だった。しかし、はたして自殺するような奴でもないはずだった。いつだって雄二は言っていた。まるで自分に言い聞かせるように。静かに、しかし力強い声で。宣言するように、主張するのだった。

「想像力がなければ、人間は生きていられない。想像力がなければ、訳も分からないうちに、いつのまにか死んでしまうんだ。それだけはごめんだ」

その時は、笑いながら、何言ってんだよ、などと茶化してみたり、あまりに真剣すぎて面白くないよ、などと厳然とした場を緩めるように言い返したりしていた。

雄二が言っていたことが正しかったのだとすれば、雄二は、想像力がなかったせいで死んでしまったとでもいうのだろうか。もしそうだったとして、それが何を意味するのか、具体的に何が起きて、雄二の人生が絶たれてしまったのか、全く見当も付かなかった。