陰影 七


        七

「ふしゃるぅぅ、ぶぉぁぅぉぁ」

「ぶぉぉぉお、おぅおぁぅうう」

一歩また一歩と薄紫色の靄をかき分けて進むほど、声は次第に大きく近くなっていく。いったい何なんだ。何故こんなことになっている。何故逃げることができないのか。何故自分の意思とは裏腹にこの足は声のする方へと進んで行くのか。

ままならない身体と事態の不可解さに眉間を寄せ、前方を睨むように見据えると、そこには一つの人影があった。いやそれも人なのか分からない。三メートル程はある大きな狼の影のように見える。いや違う、これは人でもなく狼でもなく、そのどちらでもあるもの、いわゆる人狼というものではないかと、ほとんど混乱した意識を振り絞って推測した。

薄紫色の靄が薄くなり、人狼の影がついにその正体を現した時、信じられない事に、それが人狼なんかではないことに気付いた。こちらに背を向けていて、後ろ姿でしか判断する事は出来なかったが、紛れもなくそれは自分が知っている生き物、知っているだけではなく、かつて長い時間を共に過ごした友人であることに間違いはなかった。

それは、雄二だった。