陰影 六


        六

大学時代、雄二は口癖のように言っていた。

「人間の想像力なんてたかが知れている。それでも、人間は想像するしかないんだ」

人間の想像力か、そんなことを考えなくたって、人間は想像するじゃないか、想像力の範囲がどこまで及ぶか考えるより、とりあえず想像できることを想像していればいいじゃないか、などと自分は思っていた。

クリエイティブというものが、好きではなかった。とくに、クリエイティブということをわざわざ口にして調子に乗っているような連中を、気持ち悪い自意識の塊だと思っていた。人間はあえてクリエイティブであろうとしなくても、自然にクリエイティブになってしまう生き物だ。むしろ、クリエイティブではないことをしようとする方がセンスがあるやり方だとさえ思っていた。ようするに、人間の自意識というものが、好きではなかったのだろう。

自意識は多かれ少なかれ、押し付けがましい。それが最大に他人のためになっている時でさえ、実質は自分の頭の中身を脳髄やいろんな体液と一緒に他人へとおかまいなしにぶちまけて、自分勝手に悦に浸っていることに違いはない。そういうものを誰もがクリエイティブと呼んで手放しに礼賛する時代に生まれたことについて、誰にも文句を言うことも出来ないし、誰も共感してはくれないので、クリエイティブについて考えることは、意識的にしないことにしていた。時間は有限なのだ。

それでも雄二はまるで何かに取り憑かれたかのように、何度も何度もしつこく言い続けていた。

「人間の想像力なんてたかが知れている。それでも、人間は想像しなくちゃならない」

あるいは雄二は本当に何かに取り憑かれていたのかも知れない。それこそ、人間の想像力の及ばない、何かに。