陰影 二


        二

 

目覚めるともう三時だった。布団から上体を起こし窓を開けるとさらさらと霧の様な雨が降っている。庭の草木や小石や背の低い塀の向こうに見える河川敷、その対岸の平坦な街並みもみな視界に映るすべてが霧雨に覆われていた。

室内のじっとりと冷たい空気に居ても立っても居られない様な心持ちになって、駅前のレンタルビデオ屋まで出掛ける事にした。レインコートを羽織り玄関先に置いてある自転車に乗ってアパートの前の道に出る。道といっても目の前が河川敷であるから道ではなくて河道か。

ペダルを速く漕げばそれだけ顔に吹き付ける雨風が強くなる。ペダルをゆっくりと漕げばそれだけ顔に吹き付ける雨風は弱くなるが、それだけ進みも遅い。とはいえ進みが遅くて何も困る事はない。誰も待っていないし、誰も見ていない。暗灰色の空の下にあるのはただ自分と霧雨だけである。

霧雨の方では自分があることを気にしていない。自分の方もだんだんと自分があることを気にしなくなっていく。そうして無心になってペダルを漕いでいるうちに終には世界はすっかり霧雨だけになった。