ラヴクラフトの小説の特徴

 

◼︎「わたし」が語る「過去」

ラヴクラフト の小説の主人公は、語り手としての役割を全うする。どこかに行き、人智をこえたものに出会い、それを後から振り返り、語る。

ラヴクラフトの語り手は、どこで語っているのだろうか?ーー生きているのか死んでいるのかさえはっきりしない。しかし、それで十分成立している。

一人称は「わたし」で、時制は「過去」である。ラヴクラフト の文章は、つねに、起きた出来事を後から振り返る、という形式で書かれている。

無名都市に近づいたとき、わたしはそれが呪われた都であることを知った。月影の下、枯れはてた空恐ろしい谷間をひとり進んでいると、前方遥かに、死骸の一部がいけぞんざいな造りのされた墳墓からはみだすかのように、砂中から妖しく突出している石造りの都邑の廃墟が目にはいったのだ。ーー

ラヴクラフト全集 3 無名都市』H・P・ラヴクラフト 創元推理文庫 P34

 

◼︎「非現実」を描く「写実主義

ラヴクラフトの小説は、ある種の紀行文、出来事のレポートに近い。文書としての固い体裁をとりながら、詩的な雰囲気を表現している。

詩が抽象的な表現に傾向し、哲学に近づいていくのに対して、ラヴクラフトの小説はより具体的な写実的な表現に傾向し、科学に近づいている。

ラヴクラフト自身が述べていることだが、ラヴクラフトは印象より、写実を好んでいる。写実を好みながら、けっして現実主義ではない、というところが、ラヴクラフトの小説を特異なものとしている。

ラヴクラフトにおいては、写実の対象は、現実ではなく幻想なのである。「非現実」を描く「写実主義」というキーワードで、ラヴクラフトの小説の特徴を端的に言い表すことができるだろう。

 

◼︎参考文献

ラヴクラフト全集』H・P・ラヴクラフト 創元推理文庫

『H・P・ラヴクラフトーー世界と人生に抗って』ミシェル・ウエルベック 国書刊行会

 

 

 

ラヴクラフト全集 (3) (創元推理文庫 (523‐3))

ラヴクラフト全集 (3) (創元推理文庫 (523‐3))