『借りの哲学』ナタリー・サルトゥー=ラジュ

贈与としての借り 

「《贈与》が《借り》となり、その返却があらたな《贈与》となることで、《返礼を求めない贈与》(無償の愛)は時代を超えて受け継がれていく」(p22)

私たちは先行の世代や社会に「生まれながらの借り」があり、それを次世代の子供たちやその社会に返していくべきである、とナタリー・サルトゥー=ラジュは主張する。

等価交換ではなく贈与交換

《借り》を返せとはいっても、この場合の《返済》は《等価交換》ではなく《贈与交換》であり、自分に返せる分だけ返せばよいということだ。また、返す相手が借りた相手ではなくほかの誰かであるところが重要だ。

返せない負債を用いた《罪悪感》の押しつけによる支配、という借りの負の側面を軽減し、ほかの誰かに返せばよい《借り》としての無償の愛、という借りの正の側面を広げていくべきだという。

社会をより善くするための借り

《借り》というものがそれを《与える》者によって支配の道具として扱われるとき、《借り》は、社会をより善良にするものではなく、社会をより邪悪にするための道具になりさがる。そうではなく、私たちは《借り》を、社会をより善良なものにするための道具として役立てる必要がある。

ただ自由であるものたちだけが、互いによく感謝し合う

スピノザは、「ただ自由であるものたちだけが、互いによく感謝し合う」と言った。与える者が見返りを求めずに与え、与えられた者はまたほかの誰かに見返りを求めずに与える。そこには精神の自由と感謝がある。

「与えたのだから感謝をしろ」という押しつけがましい態度は、そう言ってしまう者の精神の不自由さと病弱さを白日の下にさらす。《借り》を、社会をより善良なものにするための道具として役立てるためには、私たちは精神を自由で健康なものにしなければなければならない。

 

info

『借りの哲学』

著者:ナタリー・サルトゥー=ラジュ

監訳:高野優

訳:小林重裕

ブックデザイン:鈴木成一デザイン堂

イラストレーション:ハヤシアオナ

編集:柴山浩紀

発行人:落合美砂

発行所:太田出版

印刷・製本:中央精版印刷

2014年3月28日 発行

 

目次

・はじめにーー《負債》から《借り》へ

借りたものを返せないと奴隷になる

《負債》と資本主義

《借り》と資本主義

《借り》の概念を復活させる

《借り》を肯定的に捉える

《贈与》と《借り》の関係

臓器提供の話

自分には《借り》があると思うことの効用

・第1章  交換、贈与、借り

ヴェニスの商人ーー人間関係が持つ複雑性

《贈与》と《負債》が同一の軌跡をたどるとき

《本当の贈与》とは何か?

キリスト教における《負い目の論理》ーーニーチェの考え

原始経済における《負債》の理論ーーモースとニーチェ

モースの『贈与論』

《贈与交換》を取り入れた社会

ニーチェの『道徳の系譜

《贈与》と《交換》と《借り》の関係

家族における《貸し借り》を共同体が引き受ける

貨幣経済をもとにした資本主義ーー「《等価交換》ー《負債》」のシステム

金融市場を通じた《負債》の増大

《借り》を大切にする社会

《借り》のシステムと政府の役割

・第2章  《借り》から始まる人生

タラントのたとえ話

神から与えられた才能は世の中に返さなければならない

《借り》と支配

ブドウ園の労働者のたとえ

《生まれながらの借り》

《義務》は物質的な《負債》から生まれたーーニーチェの考え

物質的な《負債》は《義務》から生まれたーーバンヴェニストの考え

負債の神学ーーマラムーの考え

同時代に生きている人々に対する《借り》

家族における《借り》

母と子の関係

ソロモン王の裁判

父と子の関係

サンタクロースの贈り物

家族における《貸し借り》の問題

《借り》と《罪悪感》

ナチスの罪と《罪悪感》

人間は罪を犯しやすい

《返すことのできない借り》ーーメランコリーと強迫神経症の場合

《象徴的な返済》と《想像的な返済》

《借り》と《責任》

レヴィナスにおける道徳的責任

《他者に対する責任》と《生まれながらの借り》のちがい

《借り》は《責任》の大きさを限定する

《借りの免除》ーー「赦し」の問題

どうしても返すことのできない《罪》をどうするか?

「正義」と「赦し」ーーニーチェの考え

「赦し」の実体ーー慈悲の心と感謝の気持ち

スピノザにおける感謝の気持ち

キリストの愛

現代における《借り》とその免除

・第3章  《借り》を拒否する人々

ドン・ジュアンーー《借り》を拒否する人生

《借り》を認めない

自分としか契約を結ばない男

肥大した自己愛

《借り》から逃走する

空虚な内面

個人主義と《借り》の否認

「革命」と「自由」の矛盾した関係

仮面の個人主義

《借り》から逃げることの悲劇

薬物嗜癖と《返すことのできない借り》

現代人と騎士の石像

ドン・ジュアンの末裔ーー自律した人間から機会主義者へ

自律した人間ーー《借り》を認めない人々に

全能感という幻想

機会主義者ーー《借り》から逃走する人々

逃走者の自由

人間の部品化

人間は《借り》から逃げつづけることはできない

・おわりにーー《借り》の復権

《借り》の負の側面

《借り》の正の側面

《返さなくてもよい借り》

新しい自分を目指す

・解説  借りに満ちた世界、そして……  國分功一郎

 

借りの哲学 (atプラス叢書06)

借りの哲学 (atプラス叢書06)